2010年9月20日月曜日

『風の谷のナウシカ』

 スタジオジブリの映画作品とは異なり、この「原作」の知名度があまりにも低いことは驚きを持って受け止めていい事実だ。しかし、それは「原作」の長大かつ複雑なストーリー、霊妙な世界観、そして重厚な哲学に由るものとして、当然至極のことと理解せねばならない。
 多くの人の指摘通り、「映画版」であらわされているのは「原作」の僅か2/7の物語でしかない。だが、内容の圧縮化による結果か否かはさておき、「映画版」と「原作」では、登場人物の関係性や物語の向かっていく先など、その内容は全く異なるものであると言わざるを得ない。況やそこから受け取るメッセージをや、だ。

 「ナウシカ」と環境問題の関係について語られることがままあるが、そのことについて触れる際、「環境」を意味するエコロジーという言葉が、同時 に「生態」という意味を有していることを考え合わせると、「原作」においては、まさに「生態」の次元から物語が展開されているということに自ずと気付く。 
 人類の歴史、腐海の謎、生命の神秘、超越的存在、そして王蟲のレゾンデートル…。殆どの人が、まず「映画版」を観てから「原作」のことを知るのであろうが、「映画版」で明らかにされていなかった事物とその因果には舌を巻くだろう。
 だが、相も変わらず「原作」は、むしろ、より一層深いレベルで、生の根底から人間と世界を描き、その行く末を見据える視座を提供してくれるものであり、深い闇の世界を描きながらも、読後は不思議な爽快感を与えてくれる。そこで私たちは、それが「風の谷」からナウシカが運んできた「風」であることを感じるのである。

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