2011年10月19日水曜日

『津軽』/ 太宰治

 私にとって太宰治の魅力とは、一人の作家の作品のなかに、『走れメロス』のように人間愛と浪漫を描いたものと、『斜陽』のようにグロテスクなまでに 生々しく人間の〈生〉を描いたものの両方が存在していることにあった。そのアンビバレンスこそ、この世の人間が抱える苦悩と理想のジレンマを現しており、読者の胸を打ち、 強い共感を覚えさせてくれるのである。
 だが、『津軽』は太宰の捉えた更なる地平をみせてくれた。故郷である「津軽」への旅路の果て、彼はそうしたジレンマを超克さえしうるカタルシスを得る。それは、自らの起源へと回帰すると同時に、到達点へと至る二つの体験であった。その到達点という意味において、太宰の最高傑作との呼び名に偽りはない。

「私の個人主義」/ 夏目漱石

後に則天去私の境地に至る漱石
その過程に極めた「近代的自我とは何か」の答えがここにある。